ケアニン主演の戸塚さんと語る 介護のしごとの魅力と時々ホンネ

映画ケアニン主演の戸塚純貴さんをゲストに迎え、滋賀県内の若手介護職員さんとの座談会を開催。介護のしごとの魅力や楽しさ、またしんどい側面など、同じ仕事だからこそ分かち合えることを、本音で楽しく語り合っていただきました。

※コロナウィルス感染対策として、ZOOMにて開催

座談会参加メンバー

戸塚 純貴

俳優。映画「ケアニン」シリーズでは主演の大森圭を演じる。現在放送中のテレビ東京系ドラマ「ユーチューバーに娘はやらん!」など様々な作品に出演。

ファシリテーター

町 亞聖

日本テレビにアナウンサーを経て活躍の場を報道局に移し、報道キャスター、厚生労働省担当記者として医療問題や介護問題などを取材。2011年にフリーに転身。母と父をがんで亡くした経験をまとめた著書「十年介護」を小学館文庫から出版。医療と介護を生涯のテーマに取材、啓発活動を続ける。

いま介護の現場で人材が不足しています。介護の将来を担う若者たちへの期待も高まるばかりなのですが、就業する若者は多くない。また若い人が入ってきても、思っていた理想と現実のギャップに悩み、継続できない人も多いと聞きます。
本日は介護をテーマにした映画「ケアニン」の主演俳優、戸塚純貴さんを迎えて、滋賀県の介護現場で活躍する皆さんが、日ごろ感じているいいところ、大変なところも含めて、お話を進めてまいります。この座談会を通じて、若い人たちが介護への関心を高めたり、またやりがいを見つけることができればと思います。

戸塚

僕は実際に介護職をやっているわけではありませんが、『ケアニン』という映画を通して福祉や介護関係者の方々からいろいろお話を伺ってきました。その中で感じたことを皆さんとお話しできたらと思います。最後までよろしくお願いします。

介護への興味は、身近な環境が育む。

まず、皆さんが介護職を選んだきっかけを教えてください。

平井

母親が訪問介護の仕事をしていました。帰宅する際には、いつも笑顔なんです。それで何となく介護の仕事は、楽しそうに見えていました。やがて高校生のころ、認知症の祖父と買い物に出かけたときのこと。ショッピングモールで祖父がつまづいたのです。助けてあげたかったけど、一人では何もできなかった。そんなことを経験して、介護職を目指そうと本気で思ったのがきっかけです。

川島

まず、祖母のことが、大好きであったことが始まりです。祖母は、いま私が働いている施設で、ボランティアをしていました。私が小学校1年~2年のときに一緒に参加したのが、福祉の世界との初めての出会い。そのときの、利用者さんの笑顔がすてきだったのはもちろんのこと、職員さんがすごいキラキラ輝いて見えました。おじいちゃん、おばあちゃんを笑顔にするために、職員さんが一生懸命だったことを、いまでも覚えています。

久保井

祖父母と一緒に住んでいます。両親の代わりに、自転車の乗り方とか勉強を教えてくれました。ところが高校生のときに、祖母がアルツハイマーと診断されたんです。そこからどんどん変わっていく姿を目の当たりにして、どうすることもできない自分がすごく嫌でした。介護職を仕事に選んだのは、祖母へ恩返しをしたかったからです。

ご家族をはじめ、身近にお年寄りがおられる環境だったということですね。でも、それはうらやましい。いまの時代、一緒に暮らしてない家族のほうが多いですから。身近にお年寄りがいることで、大切なことに気づいたり、かけがえのない思いを育むことができる気がします。

戸塚

皆さん、ご家族など触れることのできる大切な存在があって、心を動かされて、このお仕事に就いたのですね。でも若いときから介護に触れる機会って、そんなに多くはありません。僕はたまたま映画という仕事があったから、施設にお話を聞くなど、利用者さんと触れ合うことができました。

戸塚さんは映画を通じて、ほかにも気づいたことはありますか。

戸塚

そうですね、最初の映画が小規模多機能型施設、次が特養を参考にしています。2つを比べると全くタイプが違います。利用者さんの人数も違いますし、介護のやり方も理想も違うわけです。それぞれが正しいと思うことをしている。けれども前者のやり方を後者へ持ち込むとか、あるいはその逆が良いのでは?と感じる場面もある。とはいえ現場の状況や組織の事を考えると、簡単にはいかない。一個人だけの理想では、周りの職員は納得しないし動かない。そういう葛藤が作品の中でも描かれました。

理想が高くても、一人じゃ解決できないということですね。介護の現場で働く人も、チームプレーが大切なのですね。

戸塚

利用者さんも、ケアする人たちも、立場が一緒ではありますが、利用者さんの多くは人生の先輩です。学ぶことは、たくさんあります。お話しを通じて、介護する側も、される側もお互いがケアし合っている。スタッフとか利用者さんっていう関係性ではなく、一つのチームというか、家族というか。そういう人のぬくもりを、肌で直接感じられるお仕事だと、介護の現場や映画の撮影を通じて学びました。

大変だけれど、やりがいがある仕事。

続いて、介護に携わるうえで、大変なことを聞いてみましょう。

平井

特養は生活の流れが決まっているので、排せつの交換とか、移乗介助とか、ルーティンで行います。体力を使う場面の時間が一気に集中してしまうので、そこはちょっと大変な面かもしれません。また、人材育成の面ですが、思い描いていた理想のケアができないという理由から、職場を去る人もいます。それは、もう仕方ないですね。ここで頑張りたいっていう若い人たちを、ちゃんと見てあげて、やりがいとか魅力とか感じてもらいながら、一緒に頑張っています。

川島

一人ひとり違う認知症の症状や、さまざまな病気の既往歴に対して、細やかなケアの内容や、様々な気付きを、スタッフみんなで共有するのが難しいです。同じようなケアの仕方に見えても、本当は微妙に違うことがある。けれども、その細やかなケアがうまくいったときは、とてもやりがいを感じます。

久保井

夜勤も多いから、体力は必要ですね。けれども、まわりの同僚たちが、みんないい人なんです。たまにストレスがたまって泣いちゃうときもありますが、私の職場では「みんな久保井ちゃんの味方やから」って言ってくれます。そんな優しい言葉を聞くと、また頑張ろうって思います。

介護の魅力は、日々のふれあいの中にある

介護の仕事の大変さ、よく伝わりました。では次に、その魅力について教えていただければと思います。

平井

夕方になると帰宅願望っていう形で、家に帰りたいって泣きながら訴えた方がいました。どうしようかと迷いましたが、落ち着くまでずっとそばにいました。やがて、帰りのバスもタクシーも終わったことを告げて、今夜は泊まっていってくださいと、お声掛けしました。すると…その方から、「あなたがいてくれて良かった、ありがとう、戻るわな」と言ってもらったことがあります。これはちょっとうれしくて印象に残っています。

川島

まず、笑顔。利用者さんの笑顔もそうですし、ご家族の笑顔からも元気をいただいています。そして人の優しさに、こんなに触れられる仕事はないと思います。人とこんなに密に関わりを持てる仕事も、福祉の世界の魅力だと思います。
人生の大先輩である方の、みとりケアもしていますから、その方の最後のステージに、医療従事者の方と一緒に寄り添わせてもらえることには、尊さを感じています。

本当に家族は悩むんですよね。最後に何も治療をしないことに、罪悪感を抱くこともあります。そんな場面に寄り添っているのが、皆さんなのですね。久保井さんはどうでしょうか。

久保井

全くしゃべれなかった方が、お話ができるようになったことがあります。毎日、「おはようございます」と声をかけました。そしたら何カ月かたったときに、小さい声ですけど「おはよう」って、しっかりと声に出されました。それからは、話しかける度に表情も豊かに応えてくださいます。こういう体験をすると、介護の可能性を感じます。

その利用者さんには、寄り添って心をノックし続けてくれる人が必要だったということですね。介護の仕事、ケアニンの仕事は素晴らしですね。

戸塚

本当そうですね。もしも誰か忘れても、介護する自分たちは忘れないよっていう気持ち。命だったり意思だったりを受け継いでいける、そんなカッコいい仕事は他にはないと思いますね。

これからの夢や展望~コロナ禍が気づかせてくれたこと

いま戸塚さんから、カッコいい仕事という言葉がでましたが、そんな現場で、これから未来に向けてチャレンジしたい夢やモットーがあれば、教えていただけたらと思います。

平井

コロナが終わったら、まずは面会に来ていただける環境を整えたいなと思います。オンラインでの面会とか、窓越しじゃなくて。ちゃんと触れ合える環境ですね。それからただでさえ施設内で過ごす時間が長いので、外出支援も復活したいです。コロナ禍の前は、利用者さんと一緒に近くの回転寿司にも行きました。春になればお花見をするとか、様々なイベントを通じて、利用者さんの笑顔を見てみたいです。

本当に一緒に散歩に行けるだけで泣いちゃいそうですね。また、家族と会うだけのことが、とても尊いものだと実感します。コロナ禍では、そういう当たり前過ぎて、普段は忘れていることに、あらためて気付くことも多いです。

川島

これからコロナが終わったら、利用者さんに季節を感じてもらいたいです。いまは窓から見る外の景色とか、施設の周辺だけしか散歩できないので。
それから、介護の仕事は腰痛になりやすい動作が多いけれど、私の施設では「抱えない介護」を進めています。そのための技術や知識はもちろん、福祉用具をしっかり使って予防していく。自分の体を大切にすることも、この仕事をする上ですごく大事なことだということを、みんなで共有しています。
あとは、仕事と私生活の両立ですね。子育てを通じて実感したのですが、仕事のオンとオフをしっかりと切り替えることで、ストレスマネジメントにもつながってくると思いました。ストレスがフリーになると、仕事のやる気、働きやすさにつながるということを、周りのみんなに伝えていきたいと思います。

久保井

私は介護している上で軸に置いているのが、笑顔でのコミュニケーションです。笑顔を忘れずに、あいさつをするようにしています。そうすると、やっぱり利用者さんもすごい笑顔で返してくれるんですよ。
さっきもお話ししましたが、笑顔のコミュニケーションを図ることで、信頼関係もつくれると思います。心のつながりの機能も回復します。だからこそ、これからも笑顔のコミュニケーションで頑張りたいです。

滋賀県で、介護のミライを始めよう。

私は皆さんのお話で、介護業界の未来は捨てたものじゃなくて、明るいなって感じています。けれども一方で、福祉の専門学校で学んでいる学生はいるのに、親御さんが介護の道に進むことを止めるケースも少なくないと聞きました。介護は辛いというマイナスイメージが先行しているからだと思いますが、介護や福祉業界のイメージアップのために、いま何が必要か、何ができるのか、ご意見をいただけますか。

川島

介護の記録に関してはペーパーレス化して随分と楽になりました。いまiPadの仕様に変わっています。iPadに入力したものが瞬時にパソコンに反映されるので、他部署でもリアルタイムに共有でき、連携がとりやすくなりました。

久保井

私が勤務する高島市は、めっちゃ田舎なんです。田舎のせいかどうか分かりませんが、職員の年齢層も高い。デジタル化とかAI化が進んで、付いていけない職員が大勢いる。私は若いですが、やはり付いていけません。それでストレスがたまることもあるので、もっとデジタルに強い若手職員を増やしてほしいですね。私、スマホくらいなら普通に触れるんですけれどね。

戸塚

久保井さんYouTube始めるとか、どうですか。福祉系ユーチューバー。おじいちゃんや、おばあちゃんの思い出を語るとか、映像も交えながら。かなり若い世代だったり、いろんな人に観てもらえるコンテンツですよね。介護の情報とかも伝わりやすく編集してアップすれば、これからの介護業界のイメージアップのためにもいいかもしれません。

平井

介護の情報が若い世代に、ちゃんと届けばいいですね。TikTokとか、インスタとか、Twitterならよく視聴すると思います。SNSを使って情報を広げていくことは、これからの世代へ介護職をアピールする良い方法ですね。

介護施設には、ホームページさえない所もありますね。あっても、テキストと施設の写真だけ載っているとか。そういうとこで動画などを載せて、利用者さんの笑顔も取り上げる方がいい。個人情報の問題もありますが、介護する人や利用されている方の「顔」がちゃんと見えることは、安心感にもつながります。施設からのメッセージも伝わりやすいですね。

戸塚

今日は皆さんの気配りだったりとか、人への温かい思いを感じられましたし、何よりも介護の魅力をあらためて感じました。本当に今回の座談会の模様が多くの皆さんに届いて、皆さんのような介護職の方々がたくさん増えてほしいなって本当に思いました。

最後になりますが、長く続くコロナ禍の影響を受けていない人はおらず、全ての人が当事者となっています。コロナとどうやって向き合っていくのかみんなで考えていく実は貴重な機会です。介護にもそんな当事者意識が必要です。超高齢社会を迎えているいま、他人事ではなく、みんなが自分事として介護のことを考えられればと思います。介護の未来をより良いものにするために、介護現場で働くケアニンのみなさんをこれからも全力で応援していきます。本日は皆さんありがとうございました。